謙さんのNASHVILLE紀行3 

 

 

MONKY FINGER STUDIO 

いよいよ今日からレコーディングであります。
目指すスタジオはダウンタウンから5分ほど離れた静かな住宅街にある。
ブレントの自宅の離れを『モンキーフィンガースタジオ』と
して使っている。薄い小豆色のサイディングに白いドアを付けただけ
の建物は、窓も何もない
『音楽だけの為に作った小屋』
と言った印象の小さなもの。大きさはの2×4工法なので
スケール(メジャー)無しでもだいたいの見当はつく。
建て坪は少年山荘と全く同じで25坪の平家。
ドアも普通の輸入モノのドア?(国産ドア)にスポンジの反響
押さえがはってある程度、建築の立場から見ればよい加減なもので
ある。機材も大して多くなく、印象としては
「日本のスタジオのほうがなんぼか立派」
なのである。日本の豪華なスタジオとは、ちょっとかけ離れている。
ところが、音が違う。宮崎といろいろ分析すると、結果はこれしかない。
『人間の考え方』。
『何を大切にするか』
を見失っていない。どうやら彼等の頭の内には
「所詮機械は機械。音楽を演奏ったり録音ったりは人間のすること」
があるようだ。
『あたりまえ』
なのであるが、音楽を創っている感がある。
僕が言っているように
『どこで録音するかより、なにを録音するか』
を彼らは大切にしているようだ。

 

BRENT TRUITT & BRYAN SATTON

BOB WARREN

BYRON BERLINE

BYRON HOUSE & KEN

ぼくらがスタジオに到着したとき、外に車を止めている
ブライアンサットンが見えた。
「若い!」
今まで写真や資料で見ているより
うんと若い
『ええ子』
である。挨拶をしていると向こうからドラムのボブウォーレン。
「やあ!」
みんな手には何も持っていない。それもそのはず、
ここでは10時スタートのレコーディングというのは
当然のように10時から録音ができることを言うのであって、我々
のように10時集合、スタンバイ1時間、昼メシ食って休憩して、
それからスタートでは決してない!!見習うべきだ。
ただし、スタジオに入って初対面のメンバー(僕)がいるので少し和
らぐ時間を作ってくれる。ベースのバイロンハウスと楽器の話を
したりブライアンが7歳からギターを弾いている話をしてくれたり。
ボブはコンピューターのクロスワードパズルがお気に入りのようで、
この間もゲームをしながらうれしそうに僕を見ている。今日の僕は、
ガイドボーカルを入れる。なんせ初めて日本語の曲を演奏する人たち
なので、スタジオもいつもと少し雰囲気が違うようだ。
「きょうのメンバーはみんなBが付く人達ばかりだ。」
とブレントが場を和らげ
ている。それを聞いてバイロンバーラインが
「BYRON,BRYAN,BYRON,BOB,BILL,BRENT〜
BYRON,BRYAN,BYRON,BOB,BILL,BRENT〜」と念仏のように
つぶやいている。その間約15分。バイロンが音を出し始める。僕も
ボーカルブースに入ってヘッドホンをつける。バイロンのフィドルが
鳴るたびに「ビシー」と鳥肌が立つ。ブライアンが指慣らしを始める。
ものすごくきれいな音がヘッドホンから僕の耳に飛び込んでくる。
ベースのバイロン は大人しく優しい人みたい。ボブはコンピューター
から離れると、ひたすら何か食っている。スタジオにはコーヒー、
バナナ、山盛りドーナツ、お菓子類が置いてあってみんな思い思いに
ポリポリと食べている。「どこのスタジオも同じようなもんやなあ」
ところがここから先がちょっと違う。ブレントが『ナカマタチヨ』と
曲目のタイトルをコール、もうセッティングもサウンドチェックも
完璧にできてる「テンポ94!」あれよあれよと思う間にクリックが
スタート、ボブの1、2カウントでバイロンのキックオフ。
アイリッシュ風のイントロをつけた『仲間たちよ』が始まる。歌い
ながら「今、俺の作った曲をバイロンが演奏してくれているんだと
思うと、また熱いものがこみ上げてくる。宮崎と2人で作った
デモテープをよく聞いていてくれたようでとてもスムーズ。何よりも
宮崎が勉強して作ってくれた『ナッシュビルスコア』のおかげで完璧
な演奏。「どう?」とブレントが聞く「グッド!」としか言いようが
ない。宮崎が
「これでいいですか。」
「えぇ、ウソ〜もう今の録ってたん?」
「はい。」
「ホナ、OKやったらこれで終わり?」
「はい。」
「せっかくやし、もうチョットやってみよか。」
「ホタラ、行きます。」
で2回目スタート。みんなは
「何で2回も録るの?」といった感じ。それもそのはず2回目も
1回目とまったく同じ。
「こっちのミュージシャンは最初からフルスロットルなんや。」
を感じた。ここから先は
『念のため』
は無しにした。録音したものをみんなで聞く。全員が聞くでもなく、
聞かないでもなく話をしたりパズルをしたり。曲が終わるとブレントが
一人ひとりに
「どう?」
と尋ねると、それぞれが
「僕は18小節目のこの音。」
とか
「何小節目から何小節目までの部分を差し替える。」
と指摘する
「すごい、ちゃんと聞いてはったんや。」
細かいところを気にしないのはバイロンぐらい、けど僕に
「イメージ通りか?」
と全体のことを聞いてくれる。さすがに大御所だ。
こまかい差し替えをして
『タッチダウン!』
時計を見てびっくり1時間と少ししか経っていない。
ノイズのチェック、データの整理等をして30分。
なんと、1曲録るのに1時間半。
話には聞いていたがものすごい人たちだ。
いや!ナッシュビルではこれが当たり前なのだ。

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