謙さんのNASHVILLE紀行5   

BILL KEITHとの衝撃的な出合いがあり(このてん末は
あまりにも衝撃が強すぎるため、露骨には紹介しない。)
しばらくしてロビーへ行くとBILLとBYRONが仲よさそう
に話をしている。昨日の大洪水の話や野球の話、結構
普通の世間話である。朝食はいつもSHONEY'Sへ。
「さぁ、行こうか。」と外に出るとBYRONが
「Fiddleを持ってきてないけどいいかなぁ。」
BILLはBanjoを持ってきて「どないしょう?」と
困った様子。この人たちとの約束の時はちゃんと
楽器を持ってとか、手ブラでとか伝えとかなあきません。
BYRONには「あとで取りに戻りましょう。」BILLには
「車のトランクに入れておきましょう。」で1件落着。
Banjoを入れに車に向う途中で初めて生の『Banjoke』
を聞いた。(BanjokeとはBanjo弾きの事をおもしろ
おかしくJokeにしたもの。)Banjoを車のトランクに
入れに行くBILLにBYRONが「Banjoはこの植え込みに
置いておけば?きっとそんな重いもの持てる人は
ここにはいないヨ。」と言ってハハハと一人大声で笑って
いました。「あ〜ぁ先輩やのに、し〜らんっと。」

今朝の食事は昨日と同じSHONEY'S。BYRON とBILLは
大変仲が良く、と言ってもBYRONが一方的にFes.の
話や他のミュージシャンの話をしている。僕らも良くやる
情報交換。BILLは本当に大人しい人で『ふむふむ』と
話を聴いている。ときどき自分から話をし出すと嬉しそう
に急に大笑いする。が普通はゼンマイの切れかけた
おもちゃのようにゆっくり御飯を食べているか、
止まっている。「KENさん、今日は何の曲から録音
するの?」「最初はBluegrass styleの曲が良いと
思うので『風が吹いている』をやります。」「デモテープ
の中で一番早いやつ?」「そう。」「ヒュー・・・」と
ため息のBILL。「僕は、早くてもOKよ!タラタラ
タラタラタララララン!」とFiddleのフレーズを
陽気に口づさむRYRON。どう見てもこの二人の
楽器の選択はアベコベのような気がする。
「さぁ!行きましょうか?」
カーラジオからはGLEN CAMPBELLとDOUG DILLARD
の『gentle on my mind』が流れている。
studioでの毎日の挨拶は「How are you !」
「Mighty fine !」で始まる。癖のように
「Mighty fine !」と言ってしまうと不思議なもの
で元気が出てくる。相変わらず僕らが10時に到着すると
皆はすでに音を出している。唄うのに余計なことを
気にしなくてすむ。本当に「Mighty fine !」だ。
ボーカルブースに入る。昨日まではBOBしかみえて
いなかったのが、今日は真横にBILLが座っている。
ちょっと歪んだ老眼鏡をかけBanjoを抱えてスコアを
覗き込む姿は往年のBanjo playerの印象ではなく、
長年やっている『建具職人』と言う感じ。さぁ!
いよいよBILLがハンチィングを脱いでヘッドホーンを
付けた。この付け方がまた面白い。片方の耳だけ出して
おくとき普通僕らはヘッドホーンを後ろにずらすのだが、
彼は前にずらす。歪んだ老眼鏡が更に歪む。もう少し
格好の良い付け方もあるのにと思うが、そんなことより
playなのでしょう。この姿が録音されないで良かったです。
BOBのカウントでちょっと手ならし。「おや?」BILLが
エライ遅れてるし、コードを間違うし、時々止まる。
「ヤッパ、ゼンマイ切れかけてんにゃろか?」と若干
期待外れ。BRENTの「本番行くよ〜。」の声にも
「ちょっと待ってくれる?」と何かしら短いフレーズを
何回も練習している。昨日までとはぜんぜん違うstudioの
雰囲気。「どないなってんにゃろ?」「さぁ、判りません。」
「大丈夫なんやろか?」「どうでしょうねぇ。」と不安な
僕達「では!」と言うことで始まった途端、昨日の雰囲気に
戻る「よかった〜。」
今、正に『Bluegrassの生き証人達』が僕の作った曲を
演奏してくれている。横を見ると法被の似合いそうなBILL。
耳には心地よいBYRONのフィドル。ぐんぐん追い上げてくる
『若造達』のリズム。この時唄いながら『自分の曲が体の中に
滑り込んでくる』を実感した。なぜか、こんなに明るい
曲なのに涙がこぼれる。生きていて良かった!

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BOBは時々英気を養う

BYRONは時々悪戯をする

 

25年振りに逢ったBILL KEITH

 

 

音楽に若いも年寄りも無い